「日本日本〜」
「なんですかアメリカさん」
ちょっと向こうから手を振って、アメリカがとことこと日本の方に近寄ってきた。日本はきょとんとした顔でそれを迎える。
いつも突拍子のない彼の行動に振り回されている日本は、彼の声が聞こえるたびに少々身構える癖が出来てしまっているのだが、今日は彼は跳びはねるでもハグをするでもなしにニコニコとしている。それで少々面食らったというかほっとしたというか、まあそんな気分なのだ。
「あのな、ちょっとこれから中国に行こうと思うんだけど、今日中の飛行機がどうも手配できないらしいんだ」
「それは大変ですね。でもうちからヘリを飛ばすとかそういう事は出来ませんよ」
事前に言っておいてくれれば良かったですけど、そんな急には無理です。先手を打って言い置くと、アメリカはむう、と唇を尖らせる。
そして、ぱっと表情を明るくして言った。
「そうだ! 日本、車を出してくれないかい?」
「車? 何のためにですか」
首を傾げて聞くと、今度は逆にアメリカがきょとんと目を丸くする。
「何って、中国に行くんだよ。運転するのは疲れるけど、日本ってそんなに大きくないし、一晩飛ばせば中国まで行けるだろう?」
そりゃ、大きくは、ないですけど。
「アメリカさん、いくらなんでも中国地方と中国とを間違えたとかいうボケは無しにして下さいね?」
「え? だから僕が行きたいのは君のお兄さんの所だって」
困り顔でいうアメリカ。いや困りたいのはこっちの方ですって、と日本はちょっと頭をかかえた。
「ええとアメリカさん? 日本の車はまだ空も飛びませんし海ももぐりませんよ」
もしかしてこの人、現実とアニメと映画がごっちゃになってるんじゃなかろうか。
困り果てた先の苦しい思いつきも、ほおを膨らませたアメリカによって一蹴される。
「そんなのがあったらとっくに乗せて貰ってるよ! もう日本、いい加減意地悪は止めて車回してくれよ。大事な会議があるんだぞ」
「だから陸路で中国まで行けるわけないでしょう、うちは島国ですよ!!」
小馬鹿にしたようなアメリカの調子に苛立ちを覚えて日本は青筋を立てて一声どなった。
けれどすぐに赤くなった顔をさあっと青ざめさせて、とりつくろおうと口を開いた。
「あ、すみませんついかっとなってし……」
その言葉に、アメリカの言葉が被る。
「あ、そういえばそうだったね」
「…………は?」
思いがけなさすぎるアメリカの言葉に、ぽかんと口を開けて日本は固まる。
そんな彼の様子に気づかないアメリカはニコニコと笑いながら日本の肩をバンバンと叩いた。
「いやあごめん、忘れてた! そういえば日本って海に囲まれてたんだっけ。忘れてたよ」
どこかの国みたいでちょっとしゃくだね! 爽やかに言い放つアメリカに唖然としたままの日本。
「ええと……アメリカさん、あの、その……冗談ですよね?」
「いいや、本気だったさ!!」
なんかアジアアジアって聞くとアジア大陸とかそんなものがあってさー、こう、アジアが皆くっついてるーみたいな印象あったんだけど、そういえば日本は島国だったねえ。
ははは、とほがらかに笑うアメリカに、ははは、と空笑いで日本も答えた。
「あはははははは……でてってくださいこのすかぽんたんーっ!!!!」
でも最後には蹴りだされた。