6.結果どうなったかというと
プロイセンは迷っていた。
勢いあまってオーストリア宅の前まで来てしまったはいいが、いくら自然停戦時とはいえ今は戦時下。気軽に敵領(のそれも中心地)まで来ていいはずもない上、そもそも理由がない。
……いや、正直なところ理由はあるのだ。
一世一代の告白を、したつもりでいる。その返事をどうにかハンガリーに聞いて帰らなければいけない。そうしなければ帰れない。
頭を抱えこんでプロイセンは吼えた。
「でもまだバードも帰って来てないし……ああでもきっととどいてる……くそっ! どうすりゃいいんだ!!」
「どうもしなくていいわよ近所迷惑ね」
「うるさいっ! 大体お前が−−ってヴァ、戦乙女!!」
悪態をつくプロイセンに、後ろからハンガリーが冷水のような言葉を浴びせた。反射的にかみついてから、プロイセンは真っ青になった。
それから、真っ赤になる。
「お、おおお、お前」
「? 何、今度は戦争じゃなくて不意打ちでもしに来たの? おあいにくさまだけど、家には一歩も入れませんからね」
舌足らずに何も言えなくなるプロイセンに、畳み掛けるようにハンガリーは言う。その様子は、互いに武装していない、と言う事を除けば大体が今までと一緒だ。
「て、手紙」
それだけをなんとか一言言う。きょとんとしたハンガリーの顔に、また血の気が引く思いがした。
「ああ、あの白いやつ。あんなの送ってどういうつもり?」
「どういうつもりもこういうつもりもあるか! そ、そのままの意味だろうが!」
真っ赤な薔薇を送って気が付かない女子はいない。一番有名な花言葉だ。
ハンガリーは唇を尖らせた。買い物の途中だったのだろう手にはバスケットとワインボトルが握られている。十分凶器になりうる代物だ。
「そんなの今更じゃないの」
「今更って……お前、気付いて」
フランスの言葉が頭をよぎる。そうだ、継承戦争のあたりから自分の様子がおかしいのは自分でもなんとなく分かっていた。原因がわからなかっただけで。
そして、フランスのような抜け目なさを持つ者には自分の心の中など筒抜けだったらしい。自分にもわからなかったのに。
悔しいがハンガリーとて恋する乙女。そのあたりの観察眼がしっかり備わっていない理由はない。
「あんたがオーストリアさんの事領地にしたいのなんか、昔から言ってる事でしょ」
「そっちかああああああああ!!!!」
うわああああと頭を抱える。それをさげすむようちらりと見て、ハンガリーはため息を付いた。
そういえば。思い出したようにハンガリーは、頭を抱えたままのプロイセンに声をかけた。
「手紙持ってきたあんたの鳥だけど、どこかで野鳥か何かに襲われたみたいで大怪我してるの。連れて帰る? それとももう少し面倒みとく?」
プロイセンは抱え込んだ顔を上げた。ぽかんと口をあける。
「何だあいつ、帰って来ないと思ったら怪我してたのか」
「うん。引っかき傷とかひどいから狩られかけたんだと思う。手紙も結構酷かった」
でも、手紙ちゃんと守ったんだから罰則はなしよ。上から物を言う口調で、ハンガリーは胸を張った。
そうか。プロイセンは帽子をはずして頭をくしゃりとなぜた。目立つ花を持たせたのは、少々まずかったのかもしれない。
部下の失敗は上司の責任。もとよりバードを叱る気などない。
一気に体中の力が抜けてしまった。座りこんで、ハンガリーを見上げる。
「もし良ければもうちょっと置いてやってくれ。ちょっと頭は悪いがいいやつだ」
「そう? あんたよりは良さそうよ。部屋やあたりを荒らしまわったりしないし」
辛口に言うハンガリーに、"言っとけ"と口の端をゆがめて返した。
まあ、今日のところはこれでいいか。プロイセンは思った。
エプロンの胸元に飾られた真っ赤な薔薇が、彼女にたいそう似合っていたから。
→七年戦争あたり、出来る限りの国を詰め込んでみました☆
スペインの関西弁への突っ込みをいただけると奇声を発しながら有難がります。
イギリスはまだお子様な感じがしたのであんな扱いです。「へたれろ! お前なんか不憫の呪いをかけてやる!! ばーかばーか」と言わせたかったんです。中学生男子みたいな。
ロシアさんも出したいかな、と思ったのですが上司が変わる前とあとで違うしなあ、と思ってやめときました。
で、オーストリアさんが結構姑みたいになりました(笑 これだと墺→←洪←普じゃないですか。
でも書きたかったのはプロイセンのどたばたっぷりなので普→洪のままでいいや。
書いててやたら楽しかったです。ハプスブルグ大好き。
May 18, 2007