4.こうなったらとことん他人に頼ろう、イタリアとか



「い、イタリアっ!!」
「ヴ、ヴェー!! プロイセンだ!!」

 ぴこぴこと一本妙なくるりを揺らせつつ、向こうからやってくる茶髪の少年イタリアを認めて、プロイセンは物陰から飛びだした。
 プロイセンは今イタリアを保護、もとい所有しているお宅の敵であり、わりと昔からイタリアを狙っているいくつもの国の一つ。イタリアが顔を青ざめさせながら大声で叫んだのも当然である。

 おまけにプロイセンの顔は赤く息も荒い。うっかりすると変態と間違えそうだ。
「い、イタリア……お、お前に頼みたい事がっ」

 ずい、っと一歩プロイセンが前に進むと、青い顔をしてイタリアは一歩後ろに下がる。
 その表情は怯えと困惑と恐怖で引きつり、全体的にがたがたしはじめた。
「や、やだよプロイセン怖いもん!!」

「ここここわくない! 怖くないぞ!! 俺はただお前に、届けてほしいもの、がっ」

 それに負けず劣らずがたがたしながら、プロイセンは右手を思いっきり突き出した。
 真っ赤な封蝋が落とされた、真っ白な封筒が握られている。

「やーーーっ!!」

 しかし怯えきったイタリアに、その行動は逆効果だった。
 殴られるか何かすると勘違いした彼は、くるりをくたっとしおらせながら悲壮を顔に彩って叫び、そのまま綺麗に180度旋回して、見事としか言えないスピードで逃げ出した。
「ちょ、待てよ!!」

 砂嵐が巻き起こる。

 こいつ、こんなに速かったっけ? 走り去ったイタリアの後ろ姿に手をのばしかけた、中途半端な格好のままぽかんと固まり、プロイセンはカクンとあごを落とした。
「イタリアに届けてもらうのは無理か……じゃあ、手で、わたす、の……か?」


 無理。絶対、無理。


 二、三回頭を振り、額に手を当ててからプロイセンは思いきり肩を落とした。頭の大仰な帽子が空しく地に落ちる。

「鳥でも飛ばすか……」

 そこにスペインかフランスあたりがいたならば"何だその逃げ腰は"とでも怒りだしそうな事を呟いて、プロイセンは帽子を拾い上げてから、少々足を引きずるようにしながら歩きだした。




5.オーストリア宅にて